派遣法の規制緩和についてフェイスブックでも言及したのですが、そこに契約法の問題も絡めてどういう問題が生まれるのか考えてみたいと思います。
まず、その変更案とは以下の通り。
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『派遣労働、同一業務「3年まで」撤廃へ 個人単位に上限』(産経新聞2013/8/7)
厚生労働省の有識者研究会は6日、最長3年までとなっている同一業務での派遣期間の制限撤廃を求めることで一致した。近く報告書を取りまとめ、早ければ月内にも厚労相の諮問機関である労働政策審議会で審議が始まる。
現在、通訳やアナウンサーなど、専門の技能を要求される26業種は派遣期間に制限がない。しかし、それ以外の業種では、派遣期間は同一業務につき最長3年と決められている。派遣先の正社員の労働を確保するための制度だが、ある派遣労働者が2年で辞めた場合、同じ業務に就く次の派遣労働者は最長1年しか働けず、不安定な雇用になりがちだった。
研究会は、業務単位でなく、個人単位に上限を設けることを提言。前任者の有無にかかわらず、派遣労働者は同じ部署で最長3年まで働けるようにする。また、部署を異動すれば、さらに同じ会社で働けるように求める。
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どう考えてもこの制度変更はおかしいと思います。
自身はそもそも派遣という働き方は極めて限定的であるべきとの立場ですが、派遣を認めるにしても今回の制度変更は一体なんのために認めるのか説明がつかない。
企業は人を取っ替え引っ替えすれば永久に派遣を利用できますが、労働者は3年置きに勤務先を変わらなければならなくなり、そうした点で労働者にとっては改悪と言えます。
この研究会の報告では、派遣先が3年を超えて派遣を受け入れる場合、派遣先の労使間でチェック機能を持たせれば常用雇用の有期雇用による代替は防げるとしていますが、労使のチェック機能が本当に機能するかは疑わしいです。
現行でも派遣期間が1年を超える場合は労働者代表の意見を聞くことになっていますが、企業によっては形式的に労働者にサインをさせるだけのところもあります。
どうもこの研究会報告を見ていると、机上の空論で組み立てられているとしか思えません。
(一応、派遣労働者や派遣企業の意見も聴取しているとしていますが)
この研究会報告のスタンスは、「派遣労働という働き方を認め、派遣による常用代替を防ぎつつ、派遣労働者を保護する」、です。
もしそうであるならこの個人単位で上限を設けるというのをやめるべきだと思います。
契約法が有期雇用の上限を事実上5年にしたことで、有期の派遣も5年経てば無期雇用の派遣労働となり、労働者にとってキャリアアップの観点から望ましいと、この報告には書いてありましたが実際は派遣元も5年で雇い止めをすると思います。
こうも制度がころころ変わるようでは、派遣元も無期雇用というリスクを抱えたくないからです。
派遣労働者は5年ごとに派遣元から派遣元へ移動するだけになるでしょう。
派遣労働者としては、どの道派遣として働くのであれば同じ企業で働き続けられる方が良い。
常用雇用の代替として派遣を使えないようにするという視点から、企業のみ期間の上限を取っ払うというのは間違っています。
ルーチンワークであれば、人をとっかえひっかえするだけです。
常用代替防止の観点を重視しすぎるあまり派遣労働者の保護が無視されている、というのが今回の報告書に対する個人的な感想です。
常用代替防止を言うなら派遣労働というもの自体を否定すべき、派遣労働を認めるなら派遣労働者として生涯働ける仕組みとすべき。
端的に言えば、政府は派遣労働を推進するのか、推進しないのか、その部分を明確にしなければいけないのだと思います。
厚生労働省「第15回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 資料」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000014405.html